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                 ( 始まりも、終わりも、全て )

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―――にかける

(辰波×夏見/ディアマイサンアンソロ寄稿)





「えっ、うそ、やだ!?」
 急なその声は店内のフロアへと出たところでタイミングよく耳に届いた。
 軽く視線を上げてみれば、聞き馴染んだ声の主が何かの雑誌をその膝に置き、身を乗り出さんばかりな勢いで覗き込んでいる。その目はひどく真剣だ。
 平生からとても二児の母親、大人の女性とは思えぬ様々なバリエーションに富んだ感情表現を披露してくれる彼女であるが、今日は暗い影をその背に背負って落胆している。
子供のようなわかりやすさだった。
 それに辰波は密かに笑って、淹れたばかりのロイヤルミルクティーを彼女の前へと差し出した。
「どうぞ、夏見サン?」
 透明グラスのなかで、カランと浮いた氷の欠片が涼しげな音を立てる。
 それにはっと夏見がその目を見開いた。
「え、あっ!? た、辰波君っ?」
 ようやく自分の存在に気付いてくれる。が、それと同時にわたわたと膝上の雑誌が閉じられた。
(……?)
 何か見られたくないものでも見ていたのかと思い、けれどすぐに笑顔を浮かべて何も気付かなかったふりをする。
 グラスを手に、「あ、ありがとう…」とぎこちなく礼を口にする彼女が、何気ないふうを装ってテーブルの上へとそっと雑誌を置き直す。だが不審な挙動は今更取り繕ってももう遅い。どういたしましてと返しながら、その問題の雑誌へとちらりと視線を軽く走らせる。隠したい事をわざわざ訊くような野暮な真似はしない。だが彼女のことならばどんな些細なことでも気にはなる。
(ごめんね、夏見サン)
 正直な己の欲求に内心で苦笑い、表情には極上の笑顔を浮かべながら雑誌を見れば、そこには最近人気急上昇中の女優が、フィルター越しに向けた満面の笑みで以ってその表紙を飾っていた。それは確かに綺麗だったが、覚えた感慨はけれどそれだけ。可愛いとは思わなかった。
 可愛い、好きだと自分が心の底から思うのは、今やこの世でたった一人、微かに頬を染め、妙に落ち着かない様子をみせる目の前の彼女だけである。
「夏見サン」
「な、なに?」
 そわそわと落ち着きのない視線が店内をあちこち彷徨う。その様子はあまりにあからさまで、やはり何かあると思わざるを得ない。
「ケーキ。何かサービスするよ。何がいい?」
「えっ!? で、でも……いつも風斗にだって貰ってるから悪いわよ。お店に来たときくらいちゃんと払」
「気にしない、気にしない。大好きな夏美サンの美味しいって顔が見られるなら、俺は逆にいくらでも食べてほしいくらいなんだし」
 ね、マシェリ? 微笑みながらそう本心を囁く。それにうっと怯んだ彼女は、見る間に顔を赤くし、すすすと無言のままに若干その身を引いた。
 椅子に座った状態で背後へと距離を取られる。
 そのまま窺うような眼差しが警戒レベルを引き上げてこちらへとおずおずと見てくるのに、
「あー……うん、まあ、そうくるとは思ったけどね」
 何もそこまで警戒しなくてもと思いつつも、その裏では以前のように単なる世辞や冗談だと笑って軽く受け流されることがないことに素直に嬉しさが込み上げてくる。たとえ困った顔をされても、今はそうやって意識してもらえることが単純に嬉しかった。
(うん。だから……言って良かったかな)
 これが、彼女が自分へと引いた心を平静に保つ為の距離、自分を意識しているがゆえに張られた心の境界線なのだとしたら、それは寧ろ大歓迎な出来事だ。
 けれど同時に、ただがむしゃらにこれまでの日々を生きてきた彼女の十年という歳月は、夫と別れてすぐに割り切れる、迷いを振り払えるようなそんな簡単なものでないのも知っている。
(まあ、だから待つって言ったんだけど)
 彼女を想って十年が経った。
 想いを告げてからは、季節を二つ、跨いだ。
 それで今更、あともう少しが待てないということもない。
「ほらほら、いーから、夏見サン」
 閉じられた雑誌にもう一度目をやってから、己のしつこさに困ったものだと苦笑する。
 けれどそれでも。
「甘いもの。好きなんだから観念しなさい」
 十年ずっと、彼女だけが好きだったのだ。





 店じまいの後、彼女が読んでいた雑誌を捲って、その中身を確認する。
 だが中は特にどうということもない、ごく普通のありふれたテレビガイド。
 一ヶ月分の予定がぎっしりと詰まっているそれに、何か見逃した番組でもあったのかと小さな悲鳴と暗い影を背負った姿を思い出し、それもありかなと呟いて小さく笑う。
 結局ケーキはこちらの強引な勧めに負け、食べていってくれた。美味しいと悔しそうにぼやき零していたのが、実に素直で可愛い反応だった。
(なにごともほどほどがよし、ってね)
 今日の収穫としては充分だ。
 そう思って笑っていたら部屋の入り口より鋭い激が飛んできた。
「ちょっと辰波さん!? いくら店長だからってそんな堂々とサボらないで下さいよ!」
 いい加減手伝ってください、と。
 その手に生クリームの入ったボウルを持ち、渋い顔で近寄ってくる。
 紫藤風斗。
 少し前から店にアルバイトとして入ってもらっているが、接客も丁寧で客受けもいい。最近では大分仕込みのほうも手伝ってもらうようになった。本格的にパティシエを目指すと言った時には多少驚いたが、案外思っていた以上にこの職業に向いているのかもしれない。しばらく店で下積みをしてもらい、本人にやる気があるならば海外留学を…とも考えている。
 ―――留学。
 その言葉にふとかつての自分が思い出され、十年前の思い出、彼の母親との出会いに、ほんの少し口の端が苦笑いとは別の微かな笑みを刻んだ。
(今日は―――何だろう。昔のことをよく思い出すね)
 秘めた想いを告げてから、少し自分の中で箍が外れてしまっているのかもしれない。テレビガイドの表紙にもう一度視線をやって、
「人聞き悪いな、風斗君。サボってないよ。ほら。休憩してるだけだって」
 と、問題のそれを掲げてみせる。
「それって仕事してないって意味じゃ一緒です」
「えー……」
「だから、えーじゃないです! えー、じゃ!」
 容赦ない切り替えしに、「明日シュークリームの予約、大量に入ってたじゃないですか。その準備もあるし、そろそろ真面目に働いてくれないと困りますよ!」と、どちらがオーナーかわからない台詞が続き、一先ず軽い声でもってはいはいと返事をする。
 そんなふうに、大らかな彼女の息子にしては彼は割合とマメなほうで、
「……今度は何ですか、辰波さん。僕のことじっと見て」
「ん? んー、いや、風斗君、君ってさ、家でもそんな感じなんだろうなって思って。夏見サンが泣かされてそうでそんな姿も想像したら可愛」
「母さんを変な妄想に巻き込まないで下さい! ああもうっ、いーからさっさと仕事して下さいよ……!」
 再び叱られた。そのまま持っていた銀のボウルを、はいこれっ! と荒っぽく手渡される。
「……風斗くん。君も大概親離れ出来てないよね……」
 案外、だから彼女はまだ告白への返事を渋っているのかもしれない。
 そんな思考がふと巡り、さもありそうな懸念にやれやれと長期戦覚悟だとはいえ幾分疲労の濃い溜め息を零す。
「た・つ・な・み・さ・ん!」
「はいはい。わかった。わかった。了解だってば」
 が、それもまた彼女を手に入れる為の試練と思えば苦でもない。
 そんな前向き思考な自分に辰波は笑う。
 わかりやすい己の恋心にただ笑うしかなかった。




***




 仕込みがあらかた済んで、ようやく一息吐く。
 気付けば時計はすでに十一時を回っていた。明日の準備に思いのほか手間取ってしまい、急かしてくれたことにそっと感謝をしつつ、彼を店の出入り口まで見送る。さすがに十二時を回るまでには彼を彼女の元に返してあげなければと少し焦ってもいた。
「お疲れさま。それじゃまた明日ね。あ、夏見サンにもおやすみって言っておいてよ、風斗君」
「もちろん言いませんからどうぞお気遣いなく」
 にっこりと笑って恋路の邪魔をする風斗君に、やっぱり親離れ出来てないなあと嘆息する。だがそれだけ母親のことを大切に、そしてよく見ているのだと思って、ふと。
「あ、そういえばさ、風斗君」
「はい? 何ですか。まさかまた母さん絡みの……」
「うん、ご明察。まあ大したことじゃないんだけどね。夏見サン、最近何かテレビ番組でも見逃した?」
「は?」
 案の定、唐突なそれに風斗君が目を丸くして、素っ頓狂な声を洩らす。
「いや、実は今日さ、さっき俺が見てた雑誌なんだけど、あれ見て悲鳴あげてたから」
 子供のように。率直に、見たままの光景をシンプルに告げると、母親の言動に頭が痛いとばかりに彼はその端整な顔を歪め、母さん……と小さく呟く。その声には気苦労の影が濃い。額に手をあてながら、「多分それ、占いだと思います」とぽつりと続ける。
 意外な返答だった。
「占い?」
「ええ。母さん、最近ちょっと占いに嵌まってて。朝のテレビ番組とかでもよくやってるじゃないですか。ああいうのとか、雑誌に載ってるのとか……最近よく見てるんですよね。それで一喜一憂激しくて」
「悲鳴?」
「……だと思います」
 苦悩の滲んだ声に、「だからあんまり気にしないで下さい。どうせ一過性の嵌まりだと思いますから」と自らの母親をよく心得た発言がさらりと口にする。
 おそらく家で、今日自分が見たような光景を幾度となく見ているのだろう。呆れを通り越してすでにその表情には達観の色が色濃く浮かんでいる。
「それじゃ、ええと、すみません。お先に失礼します。お疲れ様でした」
「あ、うん。おやすみ」
「はい」
 なんだかんだと礼儀正しく頭を下げ、風斗君が店をあとにする。
 薄暗い夜の道へと消えてゆく背を少しばかりぼんやり眺めてから、
「……占い」
 ぽつりと呟き、店内へと戻る。そのまま放り出していた雑誌をもう一度改めてその手に取った。それからさっきと同じようにぱらぱらと軽く中を捲り、その途中の占いコーナーで手を止めた。
「あった……」
 雑誌の後ろのほう。
 十二星座のイラストに囲まれた、いかにもな星座占い。迷うことなく彼女の星座へと目を走らせた。――が。
「うーん。別に悲鳴をあげるほどのことは……」
 見れば特に大したことが書かれているわけではなかった。悪いわけでも良いわけでもない。雑誌にはこう書かれていた。
『今週のあなたはショッピングやデート、家にいるより外に出たほうが吉。躊躇ってないでどんどん外に出て自分自身をもっとアピールしてゆきましょう。そうすれば今週のあなたの運気は上昇します。ラッキーアイテムは工具セットと韓流ドラマ』
 ……ラッキーアイテムに工具セットというのが若干気にかかりはしたが、占いの内容にもアイテムにも、特別悲鳴を上げるような要素は何もない気がした。寧ろどちらかと言えば良いことが書かれている。
(それで一応実践も出来てるし)
 家にいるより外に。
「風斗くんの予想が外れたのかな」
 やはり見逃した番組でもあったのかもしれない。思いながら、雑誌を閉じかけ―――
 気まぐれで見たそこに、数秒の空白を置いて、「……え?」と自分でも驚くほど気の抜けた白い声が洩れた。目を滑らせた場所を食い入るようにしてまじまじと見つめる。だが何度見ても内容は変わらない。彼女の悲鳴が脳内で響く。拒絶を多く宿したそれが。厭うように上げられていたそれが。
 悲鳴。
 それは自分の都合のいい願望か。
 だが。
「――――っ!」
 気付けば雑誌を掴んで店内を飛び出していた。




 ……走りながら色々なことを思い出していた。
 ここ最近のことから、日本を離れ、遠い海の向こうにいた頃のことまで。その間、沢山のものが自分の中で変わった。周囲で変わった。けれど変わらぬものもあって、ずっとずっと想い続けていた、彼女の笑顔だけはどんなに時間が経ってもけして色褪せたりはしなかった。
 ずっと恋をしていた。
 相手が既婚者で、その生まれたばかりの恋心が産声を上げる暇すらなくその瞬間に破れ落ちる運命にあったのだとしても。
(関係、なかったんだよ)
 夏見さん。胸の中で浮かぶその名をそっと呟く。それは昼間と同じように。ただただ胸にある愛おしさだけを籠めて。
 若かったのだといえばきっと若かったのだろう。それでもその若さゆえの愚かさを引き摺って、引き連れて、何一つ断ち切ることなく海の向こうまで持っていった。
 そうして日本に戻ってきてすぐに自分は彼女を捜した。
 一目だけでいい。
 彼女に夫がいても、子供がいても関係なかった。
 一目だけでも、また、その姿が見られたら。彼女が、笑っていたなら。
 それだけで、自分はもう充分だった。ずっと心の支えにし続けた彼女の笑顔がもう一度見られ、その眼に焼き付けられるのであれば、何も、何一つ、構わなかった。
 彼女だけが大切だった。
 自分の気持ちなどよりもずっと、
 ―――ずっと大事で。
 けれど倖せであれと願ったその人の横に、帰国後、諦観の念と共に思い描いていた夫の姿はなく、自分が留学した、あれからずっと、彼女は一人だったとあとで知った。
 以前と変わらず確かに明るく笑ってはいた。倖せそうだった。
 だが、それだけだった。
 明るく笑いながら、それはどこか寂しげだった。淋しそうに見えた。
 それが嫌で、そんな彼女にずっと秘め続けていた自らの想いを告げたのは冬が訪れる少し前のこと。秋。あの思い出の公園で。それからほどなくして長らく音信不通であった彼女の夫と彼女は正式に別れることとなった。子供の為にと、彼女は断腸の思いで離婚を決意したのだ。
 その時、自分は彼女に口づけた。
 弱っているところにつけいって、甘い言葉を巧みに囁いて。
 彼女が揺れていたから。傷付いていたから。だからこそ、そうしなければと思った。自分のことなど利用しても構わない。
 ずっと好きで、ずっと諦めていた女性だったのだ。
(貴女が……)
 彼女の為ならば自分が傷付くことなど安いものだった。
 けれどそうやって彼女の心を労わり、意思を尊重すると言いながら、それでももう自分が 貰うと改めてその思いを強くしたのも……多分あの時だったように思う。
 その時気付いた。
 もう、出会った頃のような若さだけで支え続けられる、彼女が笑っているのなら誰がそのそばに、隣にいてもという……生まれたての赤ん坊のような無垢で綺麗な願いは自分にはないのだと。
 もう、消えてなくなっていたのだと。
 十年越しの想いのしつこさに我ながら呆れてしまう。
 だが。
 けれど。
 それでも―――
(貴女が、好きだよ。夏見さん)
 十年経っても、彼女だけが好きだった。
 それは十年経っても尚、自分の中で変わらないことの一つだった。








「……風斗くん!」
「え? えっ、辰波さん!? ど、どうしたんですか。何か忘れ物でも…」
「これ!」
 必死で駆け、追いついたその背が振り返る。
 そのまま汗だくな自分を見て驚き、返す反応に困っているのがなんとなくおかしくて、その年相応の姿に息苦しさを呑み込んで口許を綻ばせる。女手一つで我が子を育てた、彼女の努力、その全てがこの子の中にあるのだと思ったら自然と頬は綻んだ。
 いい子に育った。
 彼女が一人、頑張り続けてきたその努力を証明するように。
「え……あの、これ……鍵?」
「そう、俺のマンションの。で、マンションの場所、わかるよね?」
「あ、はい。それは一応……」
「行って」
「はっ!?」
 鳩が豆鉄砲なんて言葉は多分こういうときに使うのだろう。
 突然の言葉に、風斗君が普段滅多に見られないくらいその顔面を崩し、驚いて目を白黒させる。我ながら確かに突拍子もない台詞だった。だがだとしても、それを撤回するつもりは毛頭なかった。
 説明を求める眼差しよりも先に、その手に自宅マンションの鍵を握り込ませる。
「何でも、部屋にあるもの自由に使っていいから。――――だから、」
 脳裏に彼女の悲鳴が響く。あの声が、あの素直さが、もしも本当に自分に向けられたものだとしたなら。
「ごめんね、風斗君? 少し夏見サンに訊きたいことがあるんだ。だからちょっと今晩彼女を貸してほしい。誓って変なことはしないから」
 言い置いて、返事を待つことなく駆け出した。
 ちょっと!? と、背後より追い縋ってくるその抗議の声も聞こえなかったふりをして。
 アスファルトの地面を踏みしめながら、その脳裏、彼女に会ったらまず一番初めになんて言おうかと考える。
 それは早計な勘違いかもしれない。自惚れも甚だしいと、あとで先走った自分に羞恥にまみれた落胆をするのかもしれない。
(だけど―――)
 それはもう、今更だ。
 今更格好をつけて体面をうまく取り繕ったとしても、自分の滑稽さなどとうに彼女は知っている。充分すぎるほど知っているだろう。
 夫のいる女性に恋をした。
 最初からそれは、とても簡単な、単純なものではなかったのだから。
 報われぬ恋。
 様々な汚点を残してきっと当然の恋だ。
 夏本番を前にした湿った空気に顔を上げる。
 ぼんやりと灯りを零す街灯が、まるで時期外れの蛍のように、点々と自分がこれから向かおうとする先を仄かに照らし出してゆく。それは道標のようにも見えた。
 ああ――と郷愁にも似た思いで咽喉元に溜まる呼気を切なく吐き出す。
(そうだった……)
 一番初めに言う言葉など考えるまでもなかった。
 テレビガイドの星座占い。
 それに背を押されたのは確かなことで、彼女が彼女自身のものではなく、自分の……蟹座の記事を―――長年の片想いに区切りをつけ、次の恋に向かいましょう、そうすればきっと運気がアップ、などと勝手な未来を嘯くそんな占いを―――まさか気にして、厭って、悲鳴を上げたとは、それこそ自分勝手で都合の良い、夢見がちな展開ではあるけれど。
 けれどもその想像に心が逸った。
 そうであれと素直に思い、それを願った。
 それは紛れもない事実。自分の心。
(だから勘違いでも自惚れでも)
 おそらく帰りの遅い息子を今か今かと待ち構えて。
 何度も時計を見ては、眠らずに待っている子供のような彼女に、会ってまず一番にそれを言う。
 貴女が誰よりも好きだと笑って、そう。
 多分それでいい。
 それが、この恋のすべて。






 真夜中の訪問。
 好きだと告げて、真っ赤になった彼女を抱き締め、昼間と同じ台詞をもう一度繰り返す。
 それに返ってくる言葉はなかった。
 なかったけれど、おずおずと背に伸ばされたその腕がなによりわかりやすい、そして彼女が自分へとくれた―――



たった一つの確かな答えだった。







( 始まりも、終わりも、全て、君だけに捧げるよ )

fin.





09/07/20(サイトにア)


エロ担当と当初目されていたのに、蓋を開ければ、
ゲーム内で一番純愛モードだったパティシエ。
ゲーム内で堂島さんと同じくらい大人だったと思います。
夏見を甘やかすのに、自分ならいくら傷付けてもいいから、というような
包容力のある最後の台詞は、でもちょっと切なかったです。
基準はすべて「夏見」の倖せなんだとちょっと切なかったです。


辰波さんの……これは片想いだからこそできる恋の在り方。
というのが、とてもよくて、辰波さんが大好きです。

(故に両想いになったら多分とても怖くなってしまうと思うのです彼は)




そんな感じで読むひといるのかと思うのですが、サイトにアップ。
(むしろDMS知ってるひとが少ないと思う)