捏造すぎるミランダさんから見たラビ。
日本行きの船の中で。



「 初めましての話。 」



沢山、沢山、人がいて。
沢山、沢山、失敗してきたこと。
沢山、沢山、それでもね。
あなたがいてよかった。きっとそう、この心、あなたに届けるためにあったのね。


***


 きちんと会話ができたのは多分それでもただの数分だったに違いない。時間なんてもう覚えてもいないのだけれど。でも覚えてる。ねえ、笑ってくれたでしょう。
「ごめんなさい。」
 きっぱりとした謝罪は、あまりにも真っすぐで躊躇なく、其処に自分一人しかいなければまさか思いもしなかっただろう。それが自分に、自分だけに向けられた謝罪であったとは。
「……え、…な、なに……?」
「ごめんなさい」
 繰り返される言葉に、対して自分はただ戸惑うばかりの眼差しを向ける。彩色鮮やかな髪が眼に映った。けれど肝心の少年の顔は見えない。垂れた頭と、空いた首すじがそこには見えるだけ。その奥側にあるものは何一つとして視界には映らなかった。それは何故か。考えるまでもなく、だからそれは少年がずっと頭を下げてるからで……戸惑うミランダの様子など、まるでお構いなしにずっとそうしているからで……。
 だから、なんとなく。
(…見せないようにしてる、の?)
 そんなふうにも、取れた。そして一度思ってしまえばもはや思考は綺麗に固定され、それ以外に正しい答えはないようにさえ思えた。俄かに少年の面が気になり始める。まさか、それほど気にしているとは思わなかった。
(だって……私が……気にして、ないのに)
 破壊も再生もすべて請け負うのは自分一人だと、このイノセンスの能力を知ったときに決めた。これは私が請け負うものだと。だから彼が自分以上に気にする必要などどこにもないのだ。
(……ああ、でも)
 彼はきっと、許されたがっているのかもしれない。
 壊れた窓への謝罪ではなく。
 誰かに。
 誰でもいい。
 共に傷ついた仲間へと吐いた暴言を、その悔恨を、そうと言えずに悔いているのかもしれない。
 そしてその「誰か」に初めて会った自分が何の偶然か、あるいは神様の単なる気まぐれか、抜擢されたのだ。こちらには謝られることについての意識はまるでないというのに――初めてに、近いひとに謝られる。これは……これはどうにも居心地が悪いのではないだろうか。
「あの……」
 けれど確かに彼は待っているのだ。
 誰かの紡ぐ、許しという言葉を。それでその罪悪感が軽くなるわけでもないと知っていて。
(……………知ってる、から――なのね)
 許し、許さないように。
 あざとさを見抜くようにして言ってほしいのかもしれない。
「気に…しないで」
「…………ごめん、ごめんなさい」
「ええ」
 囁けば、ようやく垂れ下がっていた頭が上がった。神妙な面持ちで、こちらを見て、最後にもう一度ごめんと呟く。それは正真正銘、自分へと向けて。これだけは本当だった。だから。
「いいのよ、」
 記憶にある彼の名前を初めて舌に乗せる。それから少しだけ笑って、
「初めまして」
 きょとんとする眼差しに自分の名前を告げる。
 改めてまして。
 初めまして。
「あの、ミランダって呼んでくれると嬉しいのだけど……」





 あなたに名前を告げて、それからふいに笑ってくれたあなたを初めて視界に映す。
 だからきっとこれは初めましての時間。
 あなたと私、それだけで充分だった話。





(ねえ、それだけで私は嬉しかった。嬉しかったのだから)


fin.




なんだか唐突にミランダさんを書きたくなって、日記にて。
何の方向性も趣旨もテーマもなく突然で。
最初から最後まで、どこに落ち着くのかよくわからなくて、
相変わらずよくわからない話に、
もはや最初から最後まで落ち着いてないのは自分だと痛感する作品です。
(うまくなりたいなあ)





05/11/04